南仏プロヴァンスと言えば、皆さんはどんなイメージが浮かびますか?地中海に港町、ブイヤベースなどでしょうか。ラベンダー畑やバカンスを挙げる方もいらっしゃるかもしれませんね。それでは、プロヴァンス語という言語はご存じですか?おそらくよほどの言語マニアでなければ名前も聞いたことが無いという方が大半だと思います。私は今、この言語をAix-en-Provenceという街にあるAix-Marseille大学で学んでいます。この記事では私の留学における学びをご紹介しつつ、南仏に留学することの魅力もお伝えしたいと思います。
【プロヴァンス語 «le provençal » の授業について】
この言語はフランス南部のプロヴァンス地方で古くから話されているオック語の方言の一つです。フランス語とイタリア語を混ぜたような文法や発音が特徴で、プロヴァンス語の中にもさらに地域ごとの方言が存在します。話者数は年々減少傾向にあるため近い将来のうちに絶滅することが危惧されています。ここまでのようなことは留学前にネットで調べて知っていたため、では実際のところどうなのか?という点を現地で調べることが私の留学の目的の一つでした。
ほぼ勢いで、しかし決意を持って履修登録したプロヴァンス語初級の授業に臨むときは、まだ学習途中の第二外国語(フランス語)を使って第三外国語を学ぶことなんてできるのだろうかと心配していました。しかし愉快な先生と優しいクラスメイトに囲まれて、あっという間に不安なく勉強を楽しめるようになりました。授業ではプロヴァンス語の歌や漫画、詩なども使って学ぶのでプロヴァンスの文化や地理についても同時に知ることができ、それもまた楽しかったです。またその授業には留学生があまりおらず、韓国出身の友達と自然と結託して一緒にテスト勉強したり教え合ったりしながら受講できたことも大切な思い出です。二学期間受講し終わった現在ではCEFR A2相当のレベルに達し、街中にあるプロヴァンス語表記の看板や碑文などが少し読めるようになってきました。

わたしが一番好きな噴水です。明るい色の建物と石畳も大好きです!
【エクスとプロヴァンス語】
私の住む街Aix-en-Provence、ちぢめてAixはマルセイユにほど近い学生の街です。噴水と白い石畳・プラタナスの並木が特徴的で、いつも太陽の光が降り注ぐあたたかなところです。そんなこの街も昔からプロヴァンス語とともに発展してきました。通りの名前を記した標識の一部や地名の表記、伝統的な祝祭でのあいさつなどに今でもこの言語が使われており、そのような場面に出会うたび、消滅危機に瀕しながらも未だ現役で使われていることにとても感動を覚えます。例えば中心街で行われたクリスマスの伝統行事を見に行った際、伝統衣装と伝統楽器を身に着けた地元の人々が演奏やプロヴァンス語スピーチをする様子を見ることができ、普段の生活では見えない伝統もきちんと人々の中に生きているのだということを体感しました。それ以降、街で伝統行事があるたびに積極的に見に行って雰囲気を楽しんでいます。実は、エクスを選んだ理由は私が雪国生まれのくせに大変寒がりで、温暖な気候の土地に暮らしたいというものでした。しかし実際来てみればそれだけではない魅力が沢山あって、毎日新しい発見や面白い出会いがあるため全く飽きません。

プロヴァンス語表記の標識コレクション。ニースなどでも見られます
【大学生活】
私の専攻は言語学のため、大学では主に言語学・フランス語学などに関連した授業を履修しています。ただ、留学生は学科の枠組みを越えて様々な学部の授業を取れるので、例えば絵画や写真といった実技的な授業から人類学・経済学などまで興味関心に応じて自由に選択することができます。Aix-Marseille大学の大きな特徴の一つとしては、私は言語教育の充実度を挙げたいと思います。外国語学部には多くの学科があり、多くの学生がそこに属して意欲的に様々な言語を学んでいます。友達の一人は英語学科と韓国語学科の両方に所属するダブルディグリー方式で学んでおり、さらにポーランド語も勉強しているそうです。また、言語の勉強をしたいフランス人学生と学習対象言語のネイティブ留学生が交流できるタンデムシステム、言語交換カフェなどの活動も盛んで、大学全体で外国語を勉強することの楽しさを実感し共有しているような雰囲気があります。また先に挙げたプロヴァンス語のようなマイナー言語を学ぶ授業もとても充実していて、バビロニア語やサンスクリット語などを選択することもできます!講義は全てフランス語で開講されておりネイティブの学生たちと一緒に受けるので最初のうちはついていくのに苦労しましたが、それもまた成長に繋がると考えて楽しみました。秋学期にプロヴァンス地方の人類学という授業を受けていた時、テスト前に疑問点があったのですがその授業にはネイティブの友達がおらず、誰に頼ろうか困るということがありました。結局、同じ授業を受けている生徒にメールで助けを求めたところ「私がいるから心配しないで!」というメッセージとともに返事が返ってきて、あまりの優しさと心強さに泣きそうになりました。この大学は留学生数もフランストップクラスで多いため、留学生受け入れ態勢が整っており先生や現地学生もよく私たちを気にかけ、助けてくれます。海外経験が乏しい私にとってはそのような環境がとてもありがたく、分からないことがあっても頼るところがあるという安心感のもと過ごすことができました。

偶然入ったアルルの博物館で見つけたプロヴァンス語に関する展示。普通の観光ではあまり来ないような場所に気軽に行けるのも留学の醍醐味です
【フランスと日本特別な関係】
前述したように私の学びの関心の軸はフランス語学・地域言語にあるのですが、それ以外にも日本語教育にも興味があり留学前から上智大学で関連する講義を受けてきました。そのため実際に日本語教育の場に参加して実態を見てみたいと思い、日本語学科の授業に出席したり日本語カフェに毎週参加したりしています。そこで出会った日本語を学ぶ生徒たちとの交流はとても楽しく、皆日本への愛を熱弁してくれるのでいつも少し誇らしい気持ちになります。また、日本語学科開講科目を受講する中では、生徒たちがどんなことに苦労し興味を惹かれるのかということも観察し、日本語という言語の難解さを再発見するなど言語学・教育学的な観点からの発見も大いにあります。そしてなんといっても友達のレベルや外国語学習への熱意はすさまじいもので、私もまだまだだなと自省する日々です。日本語学科の友達と話すときはフランス語・日本語両方を使うためお互いがよき言語交換パートナーとなっているのですが、最近ではそれ以上に相手の言語と文化をより深く理解し共有する関係を構築している側面もあるのかもしれないと気づき、言語を学ぶことの意義を改めて考えるようになりました。

外国語学部の生徒が使うこの校舎には自習スペースがたくさんあり居心地が良いです。

キャンパス脇の階段から景色を眺めるのも楽しみの一つです。清々しいほどの晴れ空のおかげで私も日々を陽気に過ごせています。
【おわりに】
南仏は明るく暖かい地域です。国も言葉も違うのに私のことを気にかけて愛情を注いでくれる方が沢山いて、この半年間だけでも本当に多くの大切な思い出ができました。特に寮で偶然出会ったフランス人の友達と意気投合し、クリスマスから新年までご実家にお世話になった経験は一生忘れられません。
そして、日々プロヴァンス語を学び街のお祭りに顔を出したり、近隣の小さな街を渡り歩いたりするたびに自分がこの地域の文化にどっぷりつかっていき、ますます魅了されていくのを実感しています。フランス語力向上はもちろん留学目的の一つではあったのですが、それ以上にこのような経験と、さらに国際交流体験をしたおかげでローカルな視点・グローバルな視点から身の回りを観察する力が身に付きました。実は留学前は海外に行ったことすらなく何かと不安が多かったのですが、朗らかな雰囲気の街と人々に迎えられて次第に生活に慣れ、今ではAixoise(エクスの人々)の一員になりたいとまで思っています。
また最後に、もし今これを読んでくださっているあなたが留学を迷っているならば、ぜひ踏み出してみてほしいと思います。フランス社会は日本とかなり違っていて、遅れまくるバスや改札をハードルのように飛び越える人々に呆然とするときもありますが、そんな滅茶苦茶さすら面白く、日々が来てよかったと思う瞬間の連続ですからきっと後悔しないと思います。
Vivo lou prouvènço! (プロヴァンス語万歳!) あなたも消滅危機言語の継承者になりませんか?
この記事が皆様にプロヴァンス語を知っていただくきっかけになっていれば幸いです。
茨木万里江