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留学BLOG

2025.05.26

『憧れを超えて、広がる世界』

こんにちは。ドイツ語学科3年の戸谷 楓です。ミュンヘンでの1学期間の在外履修を終え、現在はフライブルクで交換留学に励んでいます。目標としていたドイツ留学を実現したという実感はまだ薄いものの、ドイツでの生活にはすっかり慣れ、日本で育った20年間で培った視座や価値観が少しずつ変化していることを実感しながら過ごしています。

-大学生活-

私が在外履修先にミュンヘンを選んだ理由は、ドイツ国内外でトップクラスの研究実績を誇り、世界各地から多くの留学生が集まるミュンヘン大学で学ぶことが、自分の視野を広げる絶好のチャンスであると考えたためです。学期前には1か月間の語学コースに参加し、学期中は週に5日×3時間のドイツ語授業と、日本学専攻の学生向けに開講されている日独翻訳の授業に参加しました。ドイツ語の授業は進みが早く、課題も多かったため、何度もキャパオーバーになりかけましたが、4技能をバランスよく鍛えることができる質の高い授業で、ミュンヘンに来た甲斐があると感じていました。加えて、日本学専攻の学生と日本からの留学生が合同で議論をしながら「歴史」について考察する授業にも参加していたのですが、歴史博物館を訪問したり日本のドキュメンタリー映画を鑑賞したりする機会を通じて日独の歴史教育や歴史への認識の違いを発見し、日本を客観的に捉える貴重な経験にもなりました。また、ミュンヘン大学には日本学専攻があり、日本語を学ぶ学生との出会いにも恵まれました。私は大学で申請したバディが日本学専攻の学生であったため、タンデムも兼ねて2人でよくカフェ巡りをしたのですが、彼女の学習意欲と学習に対する姿勢には大きな刺激を受けています。今年の夏は彼女が留学をするので、日本での再会がとても楽しみです。

 

自慢のバディ。Weihnachtsmarktにも行きました!

友人たちと餃子パーティー。

在外履修に加えてフライブルクでの交換留学を決めたのは、フライブルクがドイツ語学科を志すきっかけとなった街であり、憧れの場所であったためです。ドイツ語を学びたいという漠然とした考えを抱いていた高校生の頃、憧れのサッカー選手・堂安選手がSC Freiburgに移籍したことをきっかけに、「環境都市」としても知られるフライブルクの存在を知りました。ドイツ語だけでなく、ドイツの自然環境保護への取り組みに惹かれたこともあってドイツ語学科に入学したのですが、入学以来、地道に努力を続けてこられたのは、フライブルクに留学するという目標があったからこそだと思います。

学期前には前学期と同様に1か月間の語学コースに参加し、学期中の現在は、週2日のドイツ語授業と5つの留学生向け少人数授業、1つの講義を受講しています。複雑な文法を完全に理解していなくても、積極的に意見を述べる学生が多い中で、私は文法の理解には自信があるものの、話す力や語彙の面で課題を感じることが多く、どのクラスが自分に合っているのかを見極めるのにも苦労しましたが、現在は新たな知識を吸収したいという意欲をもってC1のクラスに挑んでいます。留学生向けの授業では、対話や議論が中心であり、グループワークも頻繁に行われます。これまで語学以外ではこうした形式の授業に参加した経験がなかったため、意見を即座に言葉にし、活発に議論を交わす他の学生たちに大きな刺激を受けています。また、留学生向けの授業は世界各地から学生が集っていることから、出身国について意見を求められる場面が頻繁にあり、そのたびに、自分が日本をどれだけ表面的な知識でしか捉えられていなかったか、また、自分の意見をもたずに過ごしてきたかを痛感します。当事者としての意識が欠けていた私には、留学を通じて得た日本を客観的に捉える機会や、議論やデモ活動が活発なドイツで目にしてきた社会の一員としての意識の在り方も大きな影響を与えてくれています。

 

サッカー観戦。フライブルクならではの自転車数に驚きました。
堂安選手のゴールも見られました!

スキージャンプの観戦。
ドイツならではのウィンタースポーツの盛り上がりを感じてきました。

-日常生活-

授業外では、挑戦と経験を意識して過ごしてきました。例えばWGです。初めて出会う人たちと共に暮らす経験は、留学中の今だからこそ挑戦する価値があると感じ、語学力向上のためにも会話の機会を増やしたいという思いから、多少の不安を抱えながらもWGでの生活を選択しました。ミュンヘンでは3人、フライブルクでは8人でキッチンやバスルームを共有して生活しています。出身地も年齢も性別も生活スタイルも異なるため、時には戸惑うこともありましたが、WGだからこそ得られる経験や学びは少なくなく、彼らとの出会いにも感謝しています。学期の始めに全員でキッチンの整理整頓をした際には、休憩なしで3時間以上も作業を続けたことに驚かされましたが、彼らと過ごす時間や、キッチンで交わす何気ない会話が自分の成長の糧になっています。

他にも、休日にはドイツを心残りなく味わえるようにさまざまな街を訪問して回っているのですが、Deutschlandticket (ICEIC等の長距離列車を除き、ドイツ全ての公共交通機関が利用できる定期券)のおかげで、出費がかさむことなくドイツ中を移動できるため、今では10時間以上の列車旅も慣れたものです。単に異なる街を知ったり、その街の暮らしを観察したりすることだけでなく、家を出てドイツ語に触れ、一期一会の出会いを楽しむ気持ちを大切にしながら出かけています。

WGのリビング。壁に増えていく絵がお気に入りです。

リュック1つで国内外を飛び回っています。

出会いを楽しむと述べましたが、ドイツ留学では教室内や学生向けイベントだけでなく、日々のあらゆる場所で出会いを経験します。電車の待ち時間や飲食店での相席、サッカー観戦などでの一期一会な出会いから、生き方に影響を与えてくださる方々との出会いまで、多くの素敵な出会いがありました。たまたま入ったカフェで日本に住んだことがある方と出会ってお話をしたり、バスの待ち時間にファストフード店で出会った方と1時間以上話し込んだり、イタリア旅行の飛行機で隣の席になった方が日本語学習アプリを利用していたので話しかけてみたところ、なんとドイツ出身の方であったり。母語も年齢も関係なく、気軽に会話を交わすドイツでの経験や彼らとの対話を通じて、他者とのかかわりをもっと大切にしたいと思うようになったこの気持ちは、今後の人生においても自分にとって大きな財産になると感じています。

もちろん、楽しい経験や素敵な出会いがある一方で、孤独感に押し潰されそうになったり、無力感に打ちのめされそうになったりすることもありました。特に、嫌でも自分と向き合わざるを得ない時間が多く、苦しい時に家族や友人に会えない孤独感はとても辛かったです。また、言葉の壁だけでなく、些細な会話の中で自分だけが話題についていけないこと(地理や映画、音楽など)が多くあり、ドイツだけでなくさまざまな国の文化にも興味をもっておくべきだったと、自分の視野の狭さに何度も落胆しました。ヨーロッパ出身の学生に共通する文化や価値観があるのは事実ですが、それ以上に、多くの学生が地球規模で視野を広げ、知識を深めていることに強い印象を受けました。自分の知識の乏しさを補いながら、どう会話し、距離を縮めるかということに依然として奮闘中です。悩んだり落ち込んだりした時は、美味しいドイツのパンやチョコレートを思いきり食べて、また前を向けるようにしています。

さて、私は当初、留学には正解があると思っていました。理想の留学像を思い描いては、それに近づくことばかりを意識し、現実とのギャップに悩むことも少なくありませんでした。しかし、何度も悩むことを繰り返して、人生に正解が無いように留学生活にも正解などあるはずがないと気がつきました。理想や目標をもつことも大切ですが、何を経験し、どのように成長するかは、誰かが決めることではなく、定められていることでもありません。だからこそ今では、自分自身がしてきたすべての選択が、自分の留学経験を形作り、自分を成長させてくれたのだと感じています。

-最後に-

私は言葉で伝えることを大切にしてきたため、留学を開始して伝えたいことを伝えられないもどかしさや相手の言葉を理解しきれないことへの不安や辛さから、部屋を出ることすら怖くなることもありました。しかし、だからこそ言語を学び、その言葉が話されている地域について学ぶことには、大きな意味があるのだと改めて実感しました。今後は、ご指導くださる先生方や応援してくれる家族だけでなく、「もっと伝えたい」と思わせてくれる友人たち、そして私がドイツ語を学んでいることを喜んでくださったドイツの方々の姿を胸に、ひたむきにドイツ語と向き合っていきたいと思います。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

戸谷 楓