
前田 健志さん(2023年卒業) 吟詠家・尺八奏者
私の肩書をご覧になっている多くの学生さんが、そう思われているのではないでしょうか。いわゆる日本の伝統芸能といわれるジャンルです。とりわけ若い世代の皆さんには、馴染みがないもので、中学校の授業で、日本の伝統楽器として尺八や箏について少し覚えたことがあるくらいでしょう。では、次のような疑問を考えてみてください。
・そもそも“伝統”とは何か。
・“日本”の伝統芸能といえる根拠は何か。
当然のこととして我々の意識の中にあるもの、そんな“常識”として捉えられていることに、あらゆる角度から疑問をぶつけ、学びを深めていく場所が大学です。実際に、尺八も飛鳥時代から奈良時代にかけて大陸から日本へ入ってきた楽器であり、縦笛という同系の楽器で言えば、古くは古代エジプトにまでその歴史はさかのぼります。そのような楽器を、単純に“日本の伝統”という言葉に括ってよいのだろうか。そのような疑問から、大学時代の研究テーマは、“境界を越える尺八”としました。私が指導を仰いだ飯島真里子教授のゼミでは、「グローバル・ヒストリー」の観点から、境界を越えて移動するものを研究します。この世界に存在する多くのモノや人が国境を越えて移動し続けています。それは、今に始まったことではないのです。場所や時代という一面的な視点ではなく、より多角的な視野をもって考察する。これは、どんな職においても必ず活きてくる素養のはずです。
私も、海外公演の折には、そんな尺八の越境の歴史やその背景にある人や文化の移動についての話を織り交ぜながら演奏をしています。そうすることで、海外の方にとってもより身近に感じてもらい、深い意義のある文化交流ができるように思います。
もうひとつ、“英語”について。私は英語学科に入学しましたが、最初から英語が得意だったわけでは決してありません。高校2年生でアメリカ留学を経験するまでは、リスニングやスピーキングなんて苦手中の苦手でした。そんな語学留学を経て、英語4技能もつけて入学してみると、そこは圧倒的な英語力のある生徒ばかり。上智大学は、とにかく国際色豊かです。英語学科には帰国子女や海外経験の長い学生が多く、課外活動などでは留学生と接する機会もたくさんあります。そんな環境も英語力向上には、いい刺激になっていました。
私自身、英語は、あくまでも便利な道具の1つとして、身につけるべきものだと考えています。英語を単に理解できるからいいのではなく、その英語力を何にどう活かすか。研究においても“英語”という言語ツールを使うことで、より多くの資料を得ることができますし、コミュニケーションにおいても英語は普通に求められる時代です。AIを使えば自分が話せなくてもいい。そうした考えもあり、確かに昨今のAI技術の進化はめざましいです。しかし、生身の人間同士のコミュニケーションに越したことはありません。人間対人間、それこそがAIが発展している時代であるからこそ、大切になってくると思います。音楽は世界共通語と言われますが、私自身、世界公用語である“英語”と言葉の域を超える“音楽”という2つを用いることが出来るのは、和楽器を広めていく夢を叶える中でも、大きな力となっています。卒業された多くのOB・OGの方も、在学中に培った英語力を、それぞれの職業で活かされていると思います。是非、英語力の習得だけを目標とせず、その先で英語を活かす未来を思い描いてみてください。
私は、3歳から吟詠を、9歳から尺八をやって、現在はそれを職業に音楽家として頑張っていますが、普通に考えれば、多くのプロ演奏家は音楽大学や芸術大学を卒業しています。私も、高校3年の進路決めの時期には悩みに悩みました。そんな時に、ある方からこういわれました。
「富士山のように、軸は高く、そして裾野は広い人間になりなさい。」
裾野を広く、つまりは知識だけでなく、“教養”を深めなさいと。そして私は、音楽だけに絞られない上智大学への進学を決めました。今、将来の自分像がぼんやりとしている方も、すでにはっきりしている方も、大学ではあらゆる学問と出逢い、人と出逢い、価値観と出逢い、多方面からの視点を養って、深い教養を身につけていってください。そして上智大学での素敵な学生生活を送ってください!
(所属は取材当時のものです)