特色と目的
ポルトガル語学科は今から約60年前に創設されました。当時はまだ日本からブラジルに移民する人びとがいたほか、経済ブームのブラジルを目指し日本企業が進出する時代でした。ポルトガル語を学ぼうとする機運が日本にありました。ご存じのように上智はカトリックの大学で、学科を立ち上げたのもブラジル人の神父様です。それから半世紀以上にわたって多くのブラジル人、ポルトガル人、日本人教員が学科を発展させてきました。
世界のどこでポルトガル語が使われているか、皆さんは知っていますか?ポルトガル、ブラジル、6つのアフリカの国々(アンゴラ、モザンビーク、サントメ・プリンシペ、ギニア・ビサウ、カーボベルデ、赤道ギニア)、そして東南アジアの東ティモールがポルトガル語を公用語としています。加えて大航海時代にポルトガル文化が持ち込まれたマカオや、比較的多くのブラジル人が暮らす米国やカナダ、オーストラリアなど、現在では5つの大陸でポルトガル語圏社会は広がっています。日本もまたポルトガル語圏の国の一つといって過言ではありません。20世紀初頭にブラジルに移民した日本人の子孫たちが今日本で働き生活しています。その数およそ20万。皆さんの周りにもポルトガル語を話す人びとがいるのでないでしょうか?人間が移動することで文化や習慣が広がります。ブラジルのシュラスコやポンジケージョ、皆さんも食べたことがあると思います。
ポルトガル語学科では言葉を学ぶだけでなく、その地域に対する理解を深めることを目指しています。学科のモットーは「言語と地域研究の両輪」です。今はAIの時代。簡単に外国語を日本語に、また日本語を外国語に翻訳することができます。でも人間同士が自分の言葉でコミュニケーションをする意味は常にあります。そのためには何が必要か。その地域の歴史や文化、社会事情に対する知識や理解です。私たちの学科では学生たちの知的関心を高めるべく、ポルトガル語圏に関するさまざまな授業を用意しています。それらを支えるのが学科教員の幅広い研究関心です。その一端をご紹介しましょう:ポルトガルの近現代史研究、ブラジルやアジア、ヨーロッパのポップカルチャー研究、ブラジルの政治や外交戦略、アフリカの政治や歴史、ブラジルの人種関係の研究、ブラジルの貧困地域におけるコミュニティ教育、在日ブラジル人の生活、世界に散らばるブラジル移民の研究、ブラジル北東部地域を中心とした文学の研究など、です。
Why ポルトガル語?
21世紀も早や20年が過ぎました。私たちの日常を変えたコロナウイルスのパンデミック、地球温暖化による異常気象や頻発する自然災害、ロシアによるウクライナ侵攻、イスラエルとハマスとの戦闘、分断が深刻化する国際社会など、世界はますます混沌とした時代になっています。日本もまた「失われた30年」といわれるように、政治、経済、社会と様々な問題を抱えています。日本はこれからどのような道を歩んでいくのか。そんな時、ポルトガル語圏の国々とのパイプを今以上に太くしていくことは重要な選択肢の一つになるはずです。
ブラジルやモザンビーク、アンゴラなどは日本が必要とする食糧や鉱物資源を豊富に持っています。いずれの国も伝統的に日本に友好的で、とりわけブラジルとは日本移民という「ひと」を介した交流の歴史があります。一方でポルトガル語圏の国々は貧困や格差、治安など多くの社会課題を抱え、日本からの協力を必要としています。
私たちの学科でポルトガル語を学び、かつてポルトガル人が船団を組んで大西洋の大海原(おおうなばら)に出ていったように、あなた自身の、そして日本の将来を見据えて、ポルトガル語圏世界で生きる航海(たび)を始めてみませんか?